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第1章 年の離れた従兄 第2話

Penulis: 花宮守
last update Terakhir Diperbarui: 2025-02-09 17:40:31

『大きなリビング』からテラスへと出られる窓は、開け放たれていた。半分だけ屋根がある広いテラスには、朝食の支度が整っている。晧司さんは、柔らかな椅子に私をそっと下ろした。彼は、向かい側ではなく私の右隣。

 七月上旬の光は強いけれど、適度に日陰ができる造りなのであまり気にならない。水面を渡るそよ風は涼気を含んでいる。

「気持ちいい……」

 ほぅ、と息をついて、コーヒーのポットに手を伸ばした。晧司さんのカップを引き寄せ、ゆっくり注ぐ。彼は何か言いかけたけれど、黙って待ってくれた。ん……重いけど、大丈夫。ポットを置くと「ありがとう」と温かな声。彼はお返しにと、私にカフェオレを作ってくれた。飲み物がそろったところで、食事が始まった。

「いただきます」

「いただきます。……どうかな?」

「おいしいです、とっても!」

 フレッシュな野菜とハムのサンドイッチ。チキンサラダに、私が好きなゆで加減の卵に、コーンスープ。どれも素材の味が生きている。

「握力も食欲も、もうほとんど元通りだ。よく頑張ったね」

「晧司さんのおかげです。私が目を覚ましてから三か月、毎日リハビリに付き添ってくださって。その前も、退院してからも、こんなに……本当にありがとうございます」

「私は、自分がしたいからしているだけだよ」

 彼は、私が眠り続けていた三か月の間も、親族としてめんどうを見てくれた。寝たきりで低下していた筋力が順調に回復してきたのも、彼が毎日、献身的に世話をしてくれたからだと、お医者様から聞いている。腕も足も、弱らないようにと少しずつ動かしてくれていた。毎日、毎日……。事故で意識を失い、一向に目を開けず、一生そのままかもしれないとさえ言われた私のために。

 どこからともなく意識が浮上し、自分が何者なのかもわからず、混乱して縋るように目を開けた時、彼の手が私の指先を包んでいた。驚いて目を見開いた彼が「リン……? 私だ。わかるか? リン!」と呼んだ。それで、私は自分の名を知った。あの瞬間から始まった三か月と半月が、私の記憶のすべて。

 意識を取り戻した私は、彼の瞳に浮かんだ光を打ち砕いてしまった。声は出なかったけれど、唇が「誰?」と動いた。「……自分の名は? 姓は」と震える声で聞かれ、答えられなかった。リンは鈴と書くことも、姓が天霧であることも、父方の従兄妹同士だということも、彼が教えてくれた。やっと言葉を絞り出していた、憔悴しきった様子が忘れられない。

 今はこうして、湖畔で微笑み合えるようになったけれど……彼のことだけでも、一日も早く思い出したい。

 その思いをかみしめていると、「焦らなくていい」と肩を抱かれた。

「君がここにいる。私にはそれが何よりも大切なことなんだ」

「晧司さん……」

 寄り添って眺める景色は、この半月ですっかり目に馴染んだもの。緑が濃く、空が近い。山に抱かれたこの地で、綺麗な空気を吸って療養していれば、いつの日か記憶は戻るだろうか。

 その時、あなたは隣にいてくれますか?

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